中小企業経営者のための財務諸表の読み方と活用法:経営判断に役立つポイント

税務諸表の読み方
中小企業の財務諸表

財務諸表は、企業の経営状態を数値で示した重要な報告書です。

企業が日々行う取引の結果として生じる売上や費用、資産や負債などの情報を集約し、財務諸表にまとめることで、経営の健全性や収益性、そして資金繰りの状況を把握することができます。これにより、企業は適切な経営判断を行い、持続的な成長を目指すための基盤を築きやすくなるのです。

 ですが、財務諸表を読み取り経営に活かすことはなかなか難しいです。多くの中小企業経営者が、数字に対する苦手意識や専門知識の不足から、財務諸表を十分に活用できていない現状があります。その結果、経営判断が遅れ、資金繰りが悪化するリスクが生じることも少なくありません。

この記事では、財務諸表の基本的な読み方を解説し、経営者が日常の経営にどのように活用できるかを紹介していきます。基礎知識から始め、実際の経営判断に役立つポイントまでを網羅しています。この記事を通じて、財務諸表に対する苦手意識を克服し、経営者としてのスキルを一層向上させることを目指しましょう。

目次

財務諸表の基礎知識

 まず、財務諸表について基礎知識から身につけていきましょう。

 財務諸表の種類と役割

財務諸表について基本的な読み方を表にまとめました。

財務諸表の基礎知識

 まず、財務諸表について基礎知識から身につけていきましょう。

財務諸表の種類と役割

財務諸表について基本的な読み方を表にまとめてみました。

財務諸表主な内容読み方のポイント
貸借対照表 (B/S)資産、負債、純資産の関係を示す。資産: 企業が保有する全てのもの。
負債: 資産購入に伴う借入金や未払い費用。
純資産: 資産から負債を引いた企業の実質的な価値。
自己資本比率流動比率を確認し、財政健全性を評価。
損益計算書 (P/L)売上高、費用、利益などの収益性を示す。売上総利益: 売上高から原価を引いたもの。
営業利益: 営業活動にかかる費用を差し引いたもの。
経常利益: 通常の営業活動から生じる利益。
当期純利益: 最終的な純利益。
– これらを基に収益性を評価。
キャッシュフロー計算書 (C/F)現金の流れを示し、企業の資金繰りの状況を把握。営業活動キャッシュフロー: 本業から生じる現金の流れ。
投資活動キャッシュフロー: 資産の購入や売却に伴う現金の流れ。
財務活動キャッシュフロー: 借入や配当に伴う現金の流れ。
– 資金繰りの健全性を確認。

財務諸表は基本的には上記3種類です。

とはいっても、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の2種類だけ作っているよ、という会社が多いと思います。

実際、その2種類だけでも良いなのですが、キャッシュフロー計算書(C/F)を作っておくと、現金の流れが分かるので資金繰りをする際に、役に立ちます。

それでは、簡単に財務3表について解説します。

貸借対照表 (B/S)

貸借対照表は、企業の「資産」「負債」「純資産」を一覧にしたものです。企業が保有する全ての資産と、それに対応する負債と純資産の関係を示し、企業の財政状態を把握するための基本的な資料です。例えば、企業がどれだけの資産を持っているか、その資産をどのように調達しているのかを明らかにします。財務健全性の指標として自己資本比率や流動比率などがここで確認できます。

この貸借対照表を銀行などの金融機関や企業内の経理部は重視しています。なので、B/Sを健全にしておく(綺麗なBSにする、とよく言います。)と銀行からの借入がスムーズに行ったり、他社との取引が決まりやすくなります。

損益計算書 (P/L)

損益計算書は、一定期間の企業の収益と費用をまとめ、最終的な利益や損失を計算するための資料です。売上高から売上原価や営業費用、経常利益、そして当期純利益までの一連の流れを示し、企業の収益性を評価するための重要なツールです。経営者は、この損益計算書を通じて、どの事業が利益を生んでいるか、またはどの部分にコストがかかり過ぎているかを判断できます。

P/Lはなじみのある資料だと思います。売上から掛かった費用を引いた残りが利益になる、という単純な構造ですし、いくら儲かったか損になったかは経営者であれば、かなり敏感になるところです。ただし、この利益も5種類あるので、どの利益がいくらなのかが大事です。

後ほど、ご紹介します。

キャッシュフロー計算書 (C/F)

キャッシュフロー計算書は、企業の現金の流れを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つのカテゴリーに分けて示します。企業がどのように現金を稼ぎ、どのように使っているかを明確にし、資金繰りの健全性を評価するための資料です。経営者は、この計算書を使って、短期的な資金需要の確認や将来的な投資の準備を行います。

C/Fを作成している中小企業はあまり多くありませんが、C/Fをつくっておくと資金繰りがしやすくなりますし、お金の流れが良く分かるのでおすすめです。

財務諸表の基本的な読み方

さて、なんとなく財務諸表についてイメージがついたところで、それぞれの見方を解説していきます。

貸借対照表 (B/S)の読み方

貸借対照表を見る際には、資産と負債、純資産のバランスを確認することが重要です。

資産は企業が保有する全てのものを示し、負債はその資産を購入するために借りたお金や未払いの費用を表します。純資産は、資産から負債を差し引いたもので、企業が実質的に所有している価値です。企業の財政健全性を評価するためには、これらのバランスを見て、資産が負債を上回っているか、自己資本比率が高いかを確認することが重要です。

 簿記3級のテキストでは、借方(資産側・左側)は良いもの、貸方(負債・純資産側・右側)は悪いもの、というイメージで持っておいてください、と書いてあることがあります。

最初はそういうイメージでも良いのですが、お金が右側から入って左側に行く、というイメージで捉えてください。

つまり、右側の負債と純資産はお金の出どころを示し、左側(資産)は今のお金のかたちを示しているわけです。

銀行などの他人から借りているお金が「負債」となり、自分が出資しているお金が「純資産」です。それが現金のかたちで残っていれば、資産の現金に計上されているし、機械に変わっていれば「固定資産」になっているのです。

会社を立ち上げ時に自分の貯金から100万円を資本金として出すと、以下の通りになります。

現金(資産) 100万円 /  資本金(純資産) 100万円

ここから簿記の仕訳によって、色々とかたちを変えていって、現在の貸借対照表になっている、というわけです。

損益計算書 (P/L)の読み方

損益計算書では、売上総利益や営業利益、経常利益、当期純利益などの主要な指標を理解することが重要です。

売上総利益は、企業が商品やサービスを販売して得た総利益を示し、粗利益とも言います。

営業利益は企業の通常の営業活動から生じる利益です。

経常利益は、営業利益から営業外に発生した損益を加味した利益です。

営業外利益は受取利息や受取配当金などで、営業外損失は支払利息などです。

税引前当期利益は法人税等を引く前の当期利益です。

税引後当期純利益は法人税等を支払った後の純粋な利益を表します。

これらの指標を使って、企業の収益力やコスト構造を評価します。

損益計算書はまず営業利益に注目しましょう。

営業利益は本業で儲けているかどうかの指標です。ここが赤字になっていれば本業で儲かっていないため、何かしら手を打たないといけません。原材料が上がっているなら売上に寄与するための価格転嫁の施策を取らないといけませんし、コスト削減やDXなどの業務効率化など改善出来るところは必ずあります。少しずつの改善の積み上げで利益を創出していきましょう。

キャッシュフロー計算書 (C/F)の読み方

キャッシュフロー計算書では、営業活動、投資活動、財務活動の3つのセクションに分かれた現金の流れを分析します。営業活動のキャッシュフローは、企業の本業から生じる現金の流れを示し、投資活動のキャッシュフローは、資産の購入や売却に関する現金の流れを示します。財務活動のキャッシュフローは、借入や株式発行、配当などに関する現金の流れを表します。これにより、企業の資金繰りが健全かどうかを判断し、必要な改善策を検討することができます。

 キャッシュフロー計算書で大事なところは何と言っても「営業活動のキャッシュフロー」です。ここがプラスになっていると現預金が増えていることになるからです。反対にマイナスだと、そのマイナス分を資産売却や銀行借り入れで賄っているのではないかと思います。

 それでは借入金の返済によってどんどんと苦しくなってくるので、コスト削減や売上アップのためのマーケティング戦略など改善策を講じていきましょう。

財務諸表の分析方法とは?

財務諸表を分析する方法は5種類ありますので、それぞれご紹介します。

安全性分析

安全性分析とは、貸借対照表を活用して支払い能力や倒産リスクを分析することです。指標はいくつかありますが、ここでは流動比率自己資本比率の2つにしておきましょう。値が高いほど会社の安全性は高いことがわかります。

具体的な値としては200%を超えると安全性が高いとされ、逆に100%を下回ると支払い能力が低いことを表し倒産リスクが高いといえるでしょう。

流動比率と自己資本比率の計算方法のその内容は、以下のとおりです。

流動比率=流動資産÷流動負債×100

流動比率は短期的な支払に余裕があるかどうかを見ることができます。この比率が200%を越えると安全性が高いとされています。反対に100%を下回ると倒産リスクが高いと言えます。最低でも100%以上になるようにしていきましょう。

自己資本比率=純資産÷総資産×100

総資産のうちの自己資本の割合を示す指標です。50%以上あれば、財務基盤が強く安定した経営が出来ていると思いますし、銀行からの借入も前向きに検討してくれると思います。

収益性分析

収益性分析とは、貸借対照表や損益計算書を活用して企業の収益性を測ることです。今回は、売上高営業利益率・売上総利益率・総資本回転率の3つに注目しましょう。値が高いほど企業の収益性が高いことがわかります。

売上高営業利益率・売上総利益率・総資本回転率の計算方法とその内容は、以下のとおりです。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100 

売上高営業利益率は企業の収益性を測る指標で、本業で儲かった利益が売上高の何割なのかを示す値です。この数値が大きいほど企業の収益性が高いと言えます。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100

売上高総利益率は粗利率とも言われ、企業の収益性を測る指標です。仕入や生産にかかった売上原価を引いた利益(売上高総利益)が売上高の何割なのかを示す値です。

総資本回転率=売上高÷総資本

総資本回転率は「総資産がどれだけ効率的に売上高を生み出したか」という資産運用効率を表す指標です。1年間に総資産が売上として何回転しているかを表します。

この指標の目安は「1.0回転」です。1回転していない場合は、資産効率が悪く、企業の資産を効率的に運用できていないことを示しています。販路開拓や販売単価の見直しなどの売上高の改善施策や滞留在庫の解消や不要な遊休資産の除却等で資産を軽くするかの対策をして回転率を上げていきましょう。

生産性分析

生産性分析とは、貸借対照表を活用して企業の生産性の高さをみることです。今回は労働生産性・労働分配率の2つを見ていきましょう。値が高いほど企業の生産性が高いことがわかります。

労働生産性・労働分配率の計算方法とその内容は、以下のとおりです。

労働生産性=算出した生産量や付加価値額÷従業員数または労働時間

算出した生産量や付加価値額を上げて、従業員数または労働時間を減らすと労働生産性が高まります。つまり少ない労力で多くの付加価値を産むようにするということです。

労働分配率=(人件費÷付加価値)×100

この指標を上げるには人件費を抑えればよいということになるのですが、社員のモチベーションを考慮すると人件費を上げた上で、付加価値を高めていく取り組みをしていくことが望ましいと言えます。

効率性分析

効率性分析とは、売上を上げるための資金を効率よく回せているかを測る指標です。

今回は総資産回転率と売上債権回転率の2つを見ていきましょう。

総資産回転率=売上高÷総資産

総資産回転率は1年間の売上高を上げるために総資産をいかに効率的に回せていたかを測る指標です。総資産1000万円の企業が1億円の売上高を上げた場合は10回転ということです。

この数値は大きいほど効率的に資産を回せていることになります。

売上債権回転率=売上高÷売上債権

売上債権回転率は、企業の売上債権の回収がどれくらい効率的に行わているかを示しています。この数値も高いほどよく、売上債権を効率よく活用できていることを示しています。反対に数値が低い場合は、債権回収に時間がかかっていることになるため、債権回収の滞留がある場合は、早期回収を促すようにしていきます。

成長性分析

成長性分析は、企業の業績がどれくらい成長しているのかを測る指標です。

ここでは、売上高増加率と営業利益増加率の2つを見ていきましょう。

売上高増加率=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

売上高増加率は企業成長の基本です。前期よりも売上高が何%成長しているかを見ていくことで、現状の企業の状況を把握でき、目標値を定めることにより具体的な施策へと落とし込んでいけます。

営業利益成長率=(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益×100

本業の営業活動で獲得した利益である営業利益の成長率を示しています。

売上高成長率が伸びているのに営業利益成長率が落ちている場合は、売上原価や固定費の増加ということになるため、仕入高の販売価格への転嫁やコスト削減等の施策を取ることになります。

財務諸表の経営判断への活用法とポイント

それでは、ひと通り財務諸表についてご説明したところで、経営判断に活かす方法をご紹介します。

財務諸表を活用した目標設定

財務諸表は、企業の現状を正確に把握し、未来の目標を設定するための強力なツールです。例えば、売上高や利益の目標を設定し、その達成に向けた具体的な経営戦略を立案する際に、財務諸表が役立ちます。

 まず、損益計算書(P/L)を分析して、収益性分析をします。

現在の収益性の状況と業界標準の収益性や過去3期分の収益性と比較します。これに基づいて、売上高の増加やコスト削減の目標を設定し、そのための具体的な施策を策定します。

次に、貸借対照表(B/S)を確認し、資産と負債のバランスを考慮した健全な資本配分を行うことが重要です。使っていない固定資産や棚卸資産があれば売却や処分を実施する、売掛金の回収サイトを早くする、また買掛金の支払サイトを遅らせるように交渉していきましょう。

特に売掛金の回収を早めればそれだけ手元資金が多くなるので、新たな仕入や投資もしやすくなりますので重要です。

 ただ、やろうと思っても何から手を付けていいのか分からない場合は、中小企業診断士や商工会議所などの専門家に相談することで、戦略立案から実行支援まで伴走支援してくれます。私も経理出身の中小企業診断士として伴走支援をしておりますので、お気軽にご相談ください。

リスク管理と資本配分

経営におけるリスク管理は、持続可能な成長を実現するための重要な要素です。財務諸表を活用することで、企業が直面する可能性のあるリスクを予測し、適切な対応策を講じることができます。

資金繰り表を作成し、毎月の資金繰りをしていきましょう。現金と預金(銀行口座別)に分けて、いついくらの資金回収ができるのか、いくらの債務支払があるのかを出来るだけ正確な金額で記載していきましょう。債権回収が遅くなっている取引先等が明らかになり、回収サイトの早期化を促すこともできます。さらに、貸借対照表(B/S)を確認して、資本の最適な配分を行い、過度な負債依存や資金の無駄遣いを防ぎます。

これにより、企業はリスクに強い体制を整えつつ、成長に必要な資本を効率的に活用できるようになります。

まとめ  

今回は、財務諸表の読み方と活用法、経営判断に役立つポイントについて解説しました。

財務諸表を活用することで、企業はより健全かつ持続可能な成長を実現することが可能です。

具体的なアクションプランとして、まずは自社の財務諸表を定期的に見直し、経営戦略に反映させることを提案します。これにより、経営の透明性を高め、リスクを管理しつつ、目標達成に向けた確実なステップを踏むことができますので、出来る範囲から実行していきましょう。何をしたらいいのか分からないという方は中小企業診断士や商工会議所にご相談してみてください。

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